「いや、オレもいっぺん来たかったんだよな。レイトショーってのがあるのは知ってたけれどよ。映画観ながら夜を明かせるなんてそうそうないだろ」
「お、小河原さんはその……居酒屋さんとかには行かれるって聞きましたけれど……」
「まぁ飲み歩いてればそのうち夜明けってもんだが、映画をこうやってキッチリ観るってのは案外なくってな。ホレ、映画観てっと眠くなっちまうこともあるだろ? そうすると夜を使い潰しているみたいな感じがしてな」
「も、もうっ。何なんですか、その理由……」
とは言え、隣に座った両兵に赤緒は高鳴る鼓動を感じていた。
以前も映画を観に来たが前回よりも特別に感じるのは、夜の魔力だろうか。
それとも――大事な人と映画で夜を明かすのは、それはきっと特別な――。
「おっ、始まるぜ」
スクリーンの幕が上がる。
今は一時であろうとも、こうして誰かの物語に没入しながら、大切な人との限りある時間を――。
――ふんふふーんと鼻歌交じりに朝食の支度をしていると、エルニィがおっ、とこちらに気付いていた。
「ご機嫌じゃん、赤緒。何かあったの?」
「い、いえっ……。あ、でも映画、観ましたよ、私も!」
「本当に? いやー、あれスゴかったでしょ!」
「ええ、本当に……! ずっとドキドキしっ放しで……! 特にあの――!」
二人同時に印象に残ったシーンを口にする。
「――泥棒二人をやっつけるシーン!」
「――指を立てて溶鉱炉に沈むシーン!」
声にしてから、あれ、とエルニィと赤緒は齟齬に気付く。
「……赤緒? 映画観て来たんだよね?」
「み、観て来ましたけれど……」
「せーの、でタイトル言うよ? せーの」
「ホーム・アローン!」
「ターミネーター2!」
暫し気まずい沈黙が流れる。
スズメの鳴き声が朝食の時間を告げる中で、赤緒は当惑していた。
「えっ……だって今年一番の洋画だって……」
「いや、だってまさかそっちだとは思わないじゃんか。……はぁー、もういいよ」
軽蔑されただろうか、と赤緒は縮こまっているとエルニィが手を差し出す。
「リピートしたかったんだ。もう一回、よければ観に行く?」
何だかエルニィ自身も少し照れているようで、頬を掻いている。
赤緒はその手を取っていた。
「は……はいっ! 是非!」
「そーれーと。誰と観に行ったのか、それだけは吐いてもらうからね。……大体見当はつくけれど」
顔を近づけさせたエルニィに、赤緒は曖昧に微笑んで、それから握った手の体温を感じていた。
――今は、こうして一緒に映画に行ってくれる仲間との友情を、大事にしたい。
だから自分はこう言うのだろう。
「――私と映画を観に行ってください――っ!」