JINKI 195 私と映画を観に行って!

「いや、オレもいっぺん来たかったんだよな。レイトショーってのがあるのは知ってたけれどよ。映画観ながら夜を明かせるなんてそうそうないだろ」

「お、小河原さんはその……居酒屋さんとかには行かれるって聞きましたけれど……」

「まぁ飲み歩いてればそのうち夜明けってもんだが、映画をこうやってキッチリ観るってのは案外なくってな。ホレ、映画観てっと眠くなっちまうこともあるだろ? そうすると夜を使い潰しているみたいな感じがしてな」

「も、もうっ。何なんですか、その理由……」

 とは言え、隣に座った両兵に赤緒は高鳴る鼓動を感じていた。

 以前も映画を観に来たが前回よりも特別に感じるのは、夜の魔力だろうか。

 それとも――大事な人と映画で夜を明かすのは、それはきっと特別な――。

「おっ、始まるぜ」

 スクリーンの幕が上がる。

 今は一時であろうとも、こうして誰かの物語に没入しながら、大切な人との限りある時間を――。

 ――ふんふふーんと鼻歌交じりに朝食の支度をしていると、エルニィがおっ、とこちらに気付いていた。

「ご機嫌じゃん、赤緒。何かあったの?」

「い、いえっ……。あ、でも映画、観ましたよ、私も!」

「本当に? いやー、あれスゴかったでしょ!」

「ええ、本当に……! ずっとドキドキしっ放しで……! 特にあの――!」

 二人同時に印象に残ったシーンを口にする。

「――泥棒二人をやっつけるシーン!」

「――指を立てて溶鉱炉に沈むシーン!」

 声にしてから、あれ、とエルニィと赤緒は齟齬に気付く。

「……赤緒? 映画観て来たんだよね?」

「み、観て来ましたけれど……」

「せーの、でタイトル言うよ? せーの」

「ホーム・アローン!」

「ターミネーター2!」

 暫し気まずい沈黙が流れる。

 スズメの鳴き声が朝食の時間を告げる中で、赤緒は当惑していた。

「えっ……だって今年一番の洋画だって……」

「いや、だってまさかそっちだとは思わないじゃんか。……はぁー、もういいよ」

 軽蔑されただろうか、と赤緒は縮こまっているとエルニィが手を差し出す。

「リピートしたかったんだ。もう一回、よければ観に行く?」

 何だかエルニィ自身も少し照れているようで、頬を掻いている。

 赤緒はその手を取っていた。

「は……はいっ! 是非!」

「そーれーと。誰と観に行ったのか、それだけは吐いてもらうからね。……大体見当はつくけれど」

 顔を近づけさせたエルニィに、赤緒は曖昧に微笑んで、それから握った手の体温を感じていた。

 ――今は、こうして一緒に映画に行ってくれる仲間との友情を、大事にしたい。

 だから自分はこう言うのだろう。

「――私と映画を観に行ってください――っ!」

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