「おう、大事だぜ。ゲン担ぎってのかな。こいつ、持ってるといつもより運気が上がる気がするんだよ。千三十二円が今の今まで無事だったのがその証拠だろ?」
それだけは……誰でもない、このぬいぐるみのために、聞いておかなければいけなかった。
「……じゃあ、その、私が貰っても……いいんだよね?」
「まぁ、操主の御守り代わりにはなるか。あ、でもぬいぐるみなんて持ったまま人機にゃ乗れねぇよな……どうすっか……」
「両……本当、あんたってのは……」
「何だよ、黄坂。オレは何も間違ったことは……あっ、さてはてめぇ。オレの全財産狙って――」
「んなわけないでしょう! このド馬鹿――ッ!」
「うぉっ! 何だよ。追いかけられるようなへまはしてねぇぞ……」
南が両兵を追いかけて行くのを、さつきは視野に入れてクマのぬいぐるみをぎゅっと抱き締めていた。
「……よかったの? これで」
「……あ、はい。だってこの子も……ちゃんと大事に扱われていたんだなって、それが分かっただけでも、私……」
「……いいわよね、あんたも。貰えるものは貰っておきなさいよ」
「……賭けは私たちの負けか」
「そうね、メルJ。負けたんだからとっとと退散しましょ」
二人は冷めたように解散していた。
境内を追いかけっこする両兵と南を視線に入れながら、居間まで戻ったさつきは、ふとクマのぬいぐるみへと声を当てる。
『よかったクマー。……両兵に捨てられそうになった時にはどうなるかと思ったクマけれど……でも、覚えられていて助かったクマよ、さつき』
「ううん、私こそ。お兄ちゃんから私に……貰ってくれてありがとう、クマさん」
微笑んで、さつきはクマのぬいぐるみへと頬ずりをする。
――たとえ、両兵がクマのぬいぐるみを他人にあげる意味を分かっていなくとも、自分にとってもう大事なものだ。
ならば、これを抱きかかえて今夜は眠ろう。
それはきっと、安らかな眠りに違いないのだから。