JINKI 50 素直になれない背中

 初めて試合中に足を折った時、どうしようもない、と思ったのをよく覚えている。  数式の見える眼がもう使えなくなった頃だ。  だから、足が治るまでの物理的な演算も、ましてや計算式も見えないのはまさしく暗闇の中を行くようで、 […]

JINKI 49 モリビトの軌跡

 ジャングルを突き進んだ代償は大きい。  毎回土くれまみれになる《モリビト2号》の装備点検と、そして洗浄は整備班の日課になっていた。  湿地帯に突っ込むことも多い人機には錆びも大敵だ。全身隈なくチェックする川本へと、青葉 […]

JINKI 48 空駆ける、絆

「だから! 争点はそこではないと言っているんです!」  南が電話口で声を荒らげたのを、赤緒たちが遠巻きに眺める。 「……何だか、南さん。いつも以上に大変そう……」 「ま、上も能天気な連中ばっかりだって言う証拠なのかもね」

JINKI 47 アンヘルとにゃんこ

 軒先で何やら奇声が聞こえてきて、赤緒は目線を振り向けていた。 「立花さん? どうしたんです?」 「あっ、赤緒ー。これ! にゃんこ!」  胴を掴んで差し出されたのは黒い耳の猫であった。野良猫であろうか。そこいらに生傷があ […]

JINKI 46 友愛の証を

「ねぇ、友次さん。アンヘルの戦力増強案って言っていたけれど、本当にこれ使うの?」  エルニィの問いかけに友次は狭い軍用通路を抜けていた。 「ええ。米国からの圧力から脱し、なおかつ正式運用を目指すのにはやはり、日本での人機 […]

JINKI 45 戦慄海域を超えて

 流れる潮風に赤緒はふと被っていた帽子を傾けていた。  大きな鍔つき帽が風に揺れ、それを保持する。 「……これが、東京湾……」  視界一面に広がる水平線に赤緒は呼吸も忘れて見入っていた。  思えば海に来るのは片手で数える […]

JINKI 44 別の未来像

 廊下で見知った影を見つけて、ジュリはその襟首を掴んでいた。 「……何で、あんたがここにいるのよ」  首根っこを引っ掴んだ相手は悪びれもせずに応じる。 「失礼だな。八将陣、ジュリ。学徒ならば学校に通うものだ。例外はない」 […]

JINKI 43 笑って泣いて強く

「南さん、何を読んでいるんですか? ……ファッション誌……?」  窺ってきた黒髪の少女に南は捲っていた誌面から顔を上げる。体操着姿で、デッケンには「津崎」の文字が。 「おっ、青葉。筋トレはもういいの?」 「休憩中なんです […]

JINKI 41 遠雷の日には

 遠雷が漏れ聞こえて、赤緒はやおら台所から遠ざかっていた。それを見た五郎が嘆息をつく。 「あの……五郎さん」 「はい。後はさつきさんに手伝っていただきますので」  赤緒は面持ちを暗くして台所を後にする。それを怪訝そうにさ […]