JINKI 70 ヘルタワーを追え!

 ――なぁ、聞いたことあるか、と船員が問い質していた。  何てことはない、世間話の一つ。漁船ではしかし、そういう「噂」が絶えない。海の上に火の玉を見ただの、海坊主に行き会っただのという、取りとめのない話。誰かの退屈を紛ら […]

JINKI 69 匿名者より

 部屋中に巻き散らかされたケーブルに、赤緒は辟易していた。 「……もうっ。立花さん。散らかしっ放しじゃないですか……」 「あー、それ? 今必要だから置いといて。データ取るのにこっちの電源だけじゃ不足していてさー。もうちょ […]

JINKI 68 アンヘルと歯医者

 ふと、目に留まった姿に赤緒は立ち止まっていた。 「あれ……ルイさん……」  どうしてなのだか、ルイは境内の奥に縮こまり、その顔を伏せていた。  まさかどこか悪いのだろうか。歩み寄った赤緒に、ルイがびくりと肩を震わせる。 […]

JINKI 67 君と前に進みたい

 ――両手をまず、真っ直ぐに伸ばして。 力まないで、ペダルを踏んだ足はぶれさせず、重心を真ん中に捉える――。  ハンドルを掴んだ手が震える。掌が汗ばんでいるのが分かる。  緊張しているのか、と己に問いかけても、やはりと言 […]

JINKI 66 今ここにあるもの

「あー、赤緒さん。いいところに居てくれたわね」  不意に呼び止められて赤緒が面食らっていると、南はそそくさとその手を引く。 「今ヒマ? ヒマよね? だったら、ちょっとだけ来てくれる?」 「えっ……あっ、ちょっと! 南さん […]

JINKI 65 雨空を抜けて

 叩きつけるようなスコールに、立ち尽くした影があった。  白銀の髪より滴る水滴を払い、駆け抜けてきたルイは、服の裾を絞る。染みついた水の重さが素直に今の自分の引きずる悔恨の重さであった。  禊の雨にもならないのは、南米の […]

JINKI 64 春が来るから

『えっさー、ほいさー、っと! あれ? これでいいんだっけ?』  エルニィの疑問を引き受けた《ブロッケントウジャ》が巨大なくわを振るい上げて自問する。その様子に、さつきは愛機である《ナナツーライト》越しに応じていた。 「え […]

JINKI 63 私のマンガ道

 等間隔にペンを走らせる音が響く中で、赤緒は息を詰めていた。  眼前にあるのは真っ白な漫画用紙。そこへと指定された背景を描き加えようとして、あっとその指がインクをこぼしてしまう。 「ご、ゴメンね、マキちゃん……。すぐに拭 […]

JINKI 62 メカニックの誇り

『トウジャってのはさ、もっとこう……アクロバティックに動かないと。こんな両腕、ナンセンスが過ぎるよ』  そうぼやきながら軍部の改修が入った《トウジャCX》を、まるで意のままに操るエルニィに誰もが毒気を抜かれた様子であった […]

JINKI 61 真紅の鎧姫

『――認証クリア。これより、新型人機、《クイン・COシャ》の実地試験を開始します。操主は八将陣、八城ジュリ』  いくつかのシステム音声に導かれ、ジュリは操縦桿を握り締めていた。  予め聞いていた通り、真紅の痩躯である人機 […]