JINKI 30 チキチキ!アンヘルとんとん相撲

 コンテナから覗いた紺碧の機体に、エルニィは、おーっと声を上げていた。

「これ、南米の?」

 ええ、と友次がデータを読み上げる。いくつかの黒塗りと、極秘事項のラベルが貼られた仕様書には、こう記されていた。

 名称――《アサルトハシャマークV》。

JINKI 29 死霊討伐

 コンテナから覗いた紺碧の機体に、エルニィは、おーっと声を上げていた。

「これ、南米の?」

 ええ、と友次がデータを読み上げる。いくつかの黒塗りと、極秘事項のラベルが貼られた仕様書には、こう記されていた。

 名称――《アサルトハシャマークV》。

JINKI 28 私を映画に連れてって

 一度だけ見た光景がある。

 記憶の片隅で埃を被っているその光景は忘れられて久しい。

 特段、珍しいわけではない。だが、何度も思い返すのだ。

 指差し、ぼやけてしまったそれを何度も声に出す。その言葉でさえも掠れていて聞き取ることはできない。

 何度も何度も、反芻する。

 カタカタと、等間隔の音。誰かの寝息。ささやき声と、そしてまた、カタカタという音。

JINKI 27 柊神社、格納庫の怪

「あのさ……ちょっといいかな、五郎さん……」

 エルニィの潜めた声に五郎はきょとんとする。そうでなくとも自分にエルニィが声をかけるのは珍しい。きっと、何か用があるのだと感じ、にこやかに応じていた。

「何でしょう? 困ったことでもありましたか?」

「いやまぁ……困ったって言うか、日本って変だよね、って話」

「変……と申しますと?」

JINKI 26 Jの刻印

 作品の一つとして、人造人間であるゾールは完璧である、と主は告げていた。

「だってそうじゃないか。彼らには繁殖に必要な器官は存在せず、そして不要な思考回路は全て遮断され、ただ戦闘にのみ研ぎ澄まされた神経がある。内臓もないから兵役にとって一番の問題点である食糧問題を完全に克服した、新たなる人類のひな形だよ」

 その言葉を人格がない交ぜになった道化師――マージャは聞いていた。

 既に人格融合は果たされている。内包する記憶の中に、ゾールに関しての情報源を呼び起こし、能面の道化師は口にする。

「……私にとってもあれは自慢の一つです。なにせ、我がグリム協会の生み出した、至高の作品が一つ。そのうちの一つは……我が手にはありませんが」

 思い描いたのは移植された過去。マージャの中で「Jハーン」としての人格が呼び起こされる。

JINKI 25 ブロッケンの影を討て

『こちら本部基地より、コード72Mへ。通信環境の是非を問いたい』

 その言葉に無線を取り、言葉を返していた。

「こちら72M。問題ない。現在、輸送機は敵当該基地の上空を通過中。降下位置まで、三分」

『了解。輸送中の迎撃に留意されたし』

 輸送中の迎撃、と胸中に繰り返し、彼女はカニバサミの髪留めをいじっていた。狭く取られたコックピットにはこの任務に際して増設された無数の装備がモニターされている。

レイカル 6 五月「レイカルと五月病」

「ヒヒイロ、大変なんだ! 創主様が!」

 突然に駆け込んできたレイカルにヒヒイロは困惑する。元々、落ち着きのない性格ではあったが、息を切らして肩を荒立たせたその様子にヒヒイロは落ち着くように促す。

「待て待て。どうしたと言うのじゃ?」

 レイカルはぜーぜーと息を切らして、涙声になった。

「創主様が、病気になってしまったー!」

JINKI 24 束の間の休息を

「小河原さん、さつきちゃんとデートしてくださいっ!」

 両兵は橋げたを眺めつつ、その言葉を聞いていた。赤緒の表情を見やり、それから額へと手をやる。

「ひゃっ……! 何するんですか!」

「……熱でもあるんじゃねぇかって。オレがさつきと? 何でだよ」

「もうっ! 冗談とかじゃないんですから。……小河原さんはいつだってそういう……」

 両兵は耳をほじくりながら問い返す。

JINKI 23 ベストフレンズ

「……赤緒ってば最近、怪しい」

 切り出したマキに泉は能天気に頷いていた。

「それは……その通りかもしれませんね。だってあのロボット、柊神社で匿っているんですから」

「そうじゃなくって! さ。今日だって帰りにちょっと買い物寄ろうって言っていたのに、余所余所しいんだってば!」

 机の上でばたつくマキに泉は嘆息をついていた。

JINKI 22 キョムの幕間

「カリス。強化人間とは言え、砂糖を入れ過ぎです。身体を壊しますよ」

 対面に座ったハマドの忠言にカリスは渋い顔を作った。

「……うっせぇな。オレの勝手だろうが」

「いざという時に病気で倒れられても困るんですよ、まったく……」

 行き交う人々をカリスは仔細に観察する。まさか、この島国でロストライフ現象が発生するとは思っていない平和ボケした者たちばかりだ。