JINKI 37 ライフイズビューティフル

 銃の握り方を知ったのは、五歳の頃だった。

 他のおもちゃと同じように、まさかこれで人が死ぬなんて思いも寄らない。だが、父親はそれを与え、そして誇らしく笑ったのを、記憶の断片で覚えている。

 実際に撃ってみると、反動で肩を壊した。三週間くらいは、右肩が上がらなかったのを周囲に笑われた。

 しかし、と私は思ったものだ。

レイカル 8 七月「レイカルの夏休み」

 扇風機を回していると、レイカルが口を大きく開けて、あーと声にする。

「すごいです! 創主様! こいつの前に座って、あーって言うだけで、声が拡張します! 新種のアーマーハウルなのでは?」

「いや、あの……。そういうために造ったつもりはないと思うんだけれどなぁ……」

 扇風機の仕組みに関して教えるのもどこか億劫だ。

 作木は部屋の隅にかけられた温度計を見やる。

JINKI 36 雨宿りの間に

「あっ、降り出しちゃった……」

 思わぬ悪天候に見舞われ、さつきは大慌てで洗濯物を取り込もうとする。今日はいやに静かだと訝しむと、そういえば五郎と赤緒は地鎮祭に赴いており、南とエルニィは新型人機の試験に出かけていることを思い出した。

 ルイは、と言うと周囲に見当たらない。

「……誰もいない柊神社って、ちょっと新鮮かも……。お兄ちゃん、来ないかな……」

JINKI 35 絶対じゃない今

 子供の頃は、何かと万能感が勝っていた気がする。

 何をやっても自由、何をされても自由。だから、特に気を利かせたつもりはなかったし、気にかけたこともなかった。

 そういうものだ、と飲み込み始めたのは物心ついた時には既にだったのかもしれない。

 臆病な自分を持て余すのに、それほど時間はかからなかった。

 どうしてなのだろう。

JINKI 34 譲れないものひとつ

 重く沈殿した静寂に、両兵は夜空を仰ぐ。

 とっくに暮れた月夜の晩に、背中を預けたのは軽自動車一台。ここに酒でもあれば、少しばかりマシなのだが、生憎酒もつまみもない。両兵は車越しに沈黙を貫いている相手へと言葉を投げていた。

「……機嫌直せって。オレだってこんなになるなんて思っちゃいねぇし……」

「それ、誘った側が言う?」

 切り詰めたエルニィの声に両兵は後頭部を掻いていた。どうにも今回ばかりは言い逃れが難しい。

JINKI 33 青い風の舞う空

 ――リバウンドの航空力学で飛翔する物体を分類上、「戦闘機」とは区分しない。

 これは大国が保有数を誤魔化すための詭弁だとか、あるいはもし実戦の域に達した場合において、既存戦闘機とアンノウンを区別するためにある。

 ここで言うアンノウン――未確認の機体はぼやかすまでもなく、血塊炉で稼働する画期的な発明、「人機」である。それは軍学校でいくらか習っていた確認事項であったので、タスク准尉は頭を振っていた。

レイカル 7 六月「レイカルのあめふり」

「……やみませんね……雨」

 窓辺で降りしきる雨を眺めていたレイカルに、作木は意識を振り向けていた。じぃっと外を凝視するレイカルに、作木は応じる。

「梅雨だからねぇ」

JINKI 32 ゆるキャラ、ジンキさん

「それは譲れません」

 応じた南に重役連は渋い顔をする。

「やはり……無理ですか」

「それ相応の報酬をいただければ、考慮に入れますが……現状の都心の心証を鑑みるに難しいかと」

JINKI 31 ポイント12、1452

「両、ちょっと顔貸しなさい」

 突然に橋の下に現れた南に、両兵は寝そべったまま、乗せた雑誌だけを持ち上げて応じていた。

「ンだよ、黄坂か。まーた、あいつらのご機嫌うかがいなんてやる気はねぇぜ」

 欠伸を噛み殺し、再びうつらうつらと眠ろうとして、両兵はソファを蹴り上げられた。そのまま地面へとずり落ちる。

JINKI 30 チキチキ!アンヘルとんとん相撲

 コンテナから覗いた紺碧の機体に、エルニィは、おーっと声を上げていた。

「これ、南米の?」

 ええ、と友次がデータを読み上げる。いくつかの黒塗りと、極秘事項のラベルが貼られた仕様書には、こう記されていた。

 名称――《アサルトハシャマークV》。