JINKI 78 夏の匂いのする戦場で 《ナナツーライト》の痩躯に無数の循環ケーブルが繋がれた状態は、まるで装置に雁字搦めにされたかのようにさえも映る。 ケーブルの辿る先は機体の番えた長距離ライフルの砲身であった。 『《ナナツーライト》へ。撃鉄、起こせ』 その呼びかけにコックピットに収まるさつきは息を詰め、《ナナツーライト》に長距離砲門の撃鉄を引かせる。 ページ: 1 2
ウィンブルガ 1 真白&飛花 悲惨なる末路 (何とか……何とかしないと……) これまで幾度となく危機を迎え、犠牲を出しつつもすんでのところで切り抜けて来た真白・ミューラー。 彼女の外見――赤い眼と白い肌は、希少な存在と語られ、ドミネイターにその身を狙われてきた。加えて、抜群の美貌とプロポーションはドミネイターの男達の性的興奮を煽り、決して消えない炎の宿った気の強い瞳は、加虐心と支配欲を刺激させる。そのため、彼女の敗北、すなわちそれは、陵辱や性的拷問に直結してしまうことを意味していた。 ページ: 1 2 3 4
JINKI 77 アンヘルの御守り ふわぁ、と欠伸を噛み殺した南は懐中電灯の明かりで見渡していた。 「……格納庫の見回りってかったるい……。人が居ないと言えばそうだけれど……」 ひとまず格納庫に収まっている人機のチェックと、それから電気設備の点検。自衛隊に任せてもよかったが、一応はアンヘルメンバーの当番制になっている。 責任者として、人機の諸々は分かっていないと話にならない。 ページ: 1 2
JINKI 76 ルイとさつきの算数教室 「あっ、こら! ルイ! 逃げるなー!」 「や、よ。何でそんなこと、やらなきゃいけないの」 境内で追いかけっこをしているルイと南を目に留めたさつきは、茫然と眺めていた。 「……ルイさんと、南さん? 何やってるんだろう……?」 洗濯物を取り込んでから、さつきは南へと呼びかけていた。 「南さん! ルイさんがどうかしたんですか?」 ページ: 1 2
JINKI 75 アンヘルと愛妻弁当 「あっ……小河原さーん! 何やってんだろ……野球?」 買い物の途中で河川敷から両兵の声が聞こえたので、呼びかけると少年たちが一斉に指差した。 「あっ、両兵! キレーなお姉さんが呼んでるよー!」 「あン? そんな知り合いはいねぇ……って、何だ柊かよ」 「買い出しの途中で……。あのー……草野球?」 窺いながら尋ねるとバットを握った両兵はおうと頷く。 ページ: 1 2
JINKI 74 思い出が醒めないうちに キャッキャッと歩き回る群衆をじっと睨み据え、両兵は嘆息を漏らしていた。 「ねぇ、両兵。何でそんなに機嫌悪いのさ」 「何でも何も……そもそもどうして、てめぇなんかと」 周囲には女子供や、家族連れが目立つ中で、自分とエルニィはまるで浮いていた。いや、浮いていると少なくとも両兵は感じていた。 「えー、いいじゃん。たまには動物園。南が見繕ってくれたんだからさ」 「……それも怪しいもんだがな。どうしたってあいつの手から動物園のチケット二人分なんて出てくるんだか」 ページ: 1 2
JINKI 73 勇気は花に、想いは胸に 「ん? 何してんだ? さつき」 はぅわっ! と肩を震わせたさつきは、こちらを見るなり何だと安堵する。 「お兄ちゃんかぁ……。五郎さんかと思っちゃった」 「何でオレだとまずいんだよ。それ、何だ? 紙をくしゃくしゃにしてっけど」 さつきが手元でいじくっているのは赤い紙束であった。それと緑色のワイヤーを組み合わせている。 ページ: 1 2
レイカル 17 五月「レイカルと鯉のぼり」 「そ、創主様……。どうやら始まったようですね……」 どこか意味ありげに口にしたレイカルに作木は足を止める。 「……何がだい?」 「何がって……戦ですよ。あれは……間違いなく、開戦の狼煙に違いありません……」 身構えたレイカルがフードの中で攻撃姿勢に入る。作木はまさか、新たなるオリハルコンと創主か、とハウルを張り詰めさせた。 「……レイカル。どこから……?」 ページ: 1 2
JINKI 72 金色の黄昏に 「おっ、小河原さん。今日も一杯どうだい?」 河川敷で野良暮らしをしている仲間に声をかけられ、両兵はソファに寝転びながら手を振る。 「おーっ、楽しみにしてっわ。じゃあ今日は腹減らしとくか。……ちょうど柊も来ねぇし、街ぶらついてたら腹も減るだろ」 よし、と膝を叩いて河川敷から歩み出る。 うららかな春の陽気に両兵は大あくびをしていた。 ページ: 1 2
JINKI 71 想い、桜の下で 「……なぁーんか、呑気だよな、連中」 ぼやいた両兵に隣に座った南が首を傾げる。 「そう? 日本人ってみんなこんなもんよ?」 「……分かんねぇのは、何でオレが、朝の五時からこんな場所でわざわざ張らなきゃならんのか、ということだっての」 両兵は周囲を見渡す。時刻は既に朝の七時を回ったところだろうか。 ページ: 1 2