JINKI 92 巨人狩り 前編①

 ――ああ、今日も夢見ている。

 燃え立つのは絶海の地平。業火に堕ちた漆黒の大地に、巨影が浮かび上がる。

 灰色と薄紫を基調としたその色彩は、今は地獄の炎を照り返していた。屹立するその姿はまさに、天地を縫い留める一本の柱のようにも映る。

『……こちらでもモニターした。よくやってくれたね、ヴィオラ』

「いえ、御意のままに。セシル様」

『称賛しているんだ。試験型人機、《ティターニア》。その神髄を引き出すのに、君ほどの適任もいないだろう』

JINKI 91 アンヘルとお菓子のオマケ

「あーっ! またハズレだよ」

 手のひらサイズの箱を開いて嘆くエルニィに、赤緒は持ってきたお茶を差し出しつつ尋ねていた。

「……何なんです? それ。小さな……消しゴム?」

「これ? お菓子会社に南が渡りをつけてくれてさ。製造に漕ぎ着けたから、一応最終チェックしてみてくださいってたくさん送られて来た試作品」

 赤緒はエルニィから渡されたその消しゴム玩具を注視する。その形状は、紛れもなく――。

「あれ? これって……人機?」

JINKI 90 舞い踊るように着飾って

「ねーねー。青葉ってば。いつも同じ服だけれど、替えとかないの?」

 尋ねてきたエルニィに青葉は自らの服を顧みる。

「これ、お気に入りだから……」

「でもさ、ここはブラジルじゃん。せっかくなんだし、ちょっとブティックまで足を延ばさない?」

 確かに、せっかくここまで来たのだ。連日《モリビト2号》の調整ばかりでは息も詰まってしまうというもの。

JINKI 89 夢風鈴の街で

「赤緒ー、何やってんのさ。遅いよ?」

「と、とは言いましても……」

 赤緒はそこいらの景観に目を奪われてしまう。何せ、初めて来たこの場所は――。

「赤緒ってば、お上りさんみたいだよ? ボクもまぁ、初めてではあるんだけれど、データなら知ってるし」

「そ、それとこれとは別じゃないですかぁ……。もっとゆっくり回りたいって言うか……。あ、あそこ! 古本市でしょうか? 本がたくさんありますね……」

「ホントだ。ちょっと寄ってく?」

JINKI 88 届く想いのために

「あら? 青葉、何やってんの? 難しい顔して」

「あっ、南さん。……その……将棋って打ったことありますか?」

「ショーギ? 何でまた」

 問いかけた南に、青葉は現太から与えられた将棋盤に並べられた駒を一瞥する。

「その……山野さんと……ちょっと揉めちゃって……。モリビトのことで……」

「あー、あの親方さんと? で、何でショーギ?」

JINKI 87 面影を探って

「あれ? 赤緒、これは?」

 エルニィに呼びかけられ赤緒は当惑して自分のこめかみを指差す。

「これ?」

「ほら、いつもの。赤くって四角い髪留めつけてるじゃん。あれ、どうしたの?」

「あれ? ……ないですか?」

 慌てて洗面所に向かうが、確かに自分の髪留めが消えてしまっていた。

「どこ行っちゃったんだろ……」

レイカル 19 8月「レイカルの花火大会」

「花火大会?」

 問い返した作木に通話口の小夜は応じる。

『そっ。まぁ、近所の小さな花火大会なんだけれど、作木君、来る気はない?』

「僕、ですか……。そうですねぇ……」

 別段、行ってもよかったのだが、今はちょうど自分一人。イベント用のフィギュア作りに精を出すために、電気代をケチらずにエアコンを全開にしている。外を窺うと予想通り、うだるような暑さが襲ってきた。

JINKI 86 その微笑みの意味を

 むすっとした表情を浮かべるメルJに、両兵はベンチに座って渋面を作っていた。

「……なぁ、ヴァネット。お前、来たくって来たんだよな?」

「……失礼なことを言うな、小河原。私とて不本意なことはしない」

 その言葉通りならば、この場に似つかわしくないコート姿もどうかと思うが、と両兵は視線を振り向ける。

 相も変わらず表情は硬い。そもそも、と歓声が上がる場所へと目を向けていた。

JINKI 85 灰色を行く者

「オーライ、オーライ……デッキアップ完了。そのまま初期動作に入ってください、立花さん」

『りょーかい。でもさー、アンヘルの陣営が足りないからって、これは反感買うんじゃないの?』

 屹立した人機は磔にされており、項垂れたその眼光からは灯火が失せている。

「いえ、有効な手段として、こっちはジャンクでも漁りたいくらいな気持ちなんです。それに、壊しただけと言うのもあまり、上には通用しないと言いますか」

『……友次さん。それって結局、敵でも味方でも、余裕ないってことじゃん』