JINKI 61 真紅の鎧姫

『――認証クリア。これより、新型人機、《クイン・COシャ》の実地試験を開始します。操主は八将陣、八城ジュリ』

 いくつかのシステム音声に導かれ、ジュリは操縦桿を握り締めていた。

 予め聞いていた通り、真紅の痩躯である人機――《クイン・COシャ》は正常に稼働している。

「右手にリバウンドエネルギータレット。背面にエナジーウイップ……。基本兵装は話の通り……問題は……」

 途端、立ち現れたのは二機の黒カラスであった。

JINKI 60 ビタースイートデイズ

「小河原さんにだけは、ぜーったいにあげませんからっ!」

 言い捨てられ、両兵は硬直する。

 それを好奇の眼差しで見送ったのはエルニィと南であった。

「あーあ、両ってばフラれちゃってー」

「……うっせぇよ、黄坂。それもこれも、アンヘルの連中に要らん入れ知恵したからだろうが。こんなもん……」

 両兵が抱えたのは腕一杯のチョコレートの山である。

JINKI 59 戦士の背中

 ――何もない。

 何も感じられない、茫漠とした闇。

 彼方まで見られた景色には地平線を染める赤が焼き付いている。

 終わりのない戦場と戦地の怨嗟。誰かのために声を上げることも、何かのために声を荒らげることも諦められた死地があった。

 産声を上げるのは破壊と殺戮のみで、希望の徒は消え去り、蛮勇の猛火は儚くも燃え尽きる。

 人間に、生きる価値は失われた。

JINKI 58 南米式友情の証2

「お茶うけを持ってきましたよー……って、あれ? 皆さん、どこへ?」

 首を巡らせたさつきは、軒先で巨大な筐体をいじっているエルニィを発見していた。

「あの、立花さん。皆さんは……」

「あー、なんか自衛隊の視察だってさー。南とルイはそのお付き。赤緒は《モリビト2号》で臨戦待機。まぁ、当然っちゃ当然だよね。視察中に《バーゴイル》でも出たら困るし」

「じゃあ、お兄ちゃんも……」

「両兵も下操主で待機だってさー。んっと……、ここをこういじくると、レーダー範囲が倍になるはずだからっと……」

JINKI 57 白鯨の討ち手

 静謐に沈んだ湖畔は月明りを映し出している。

 蒼く染まる夜、付近の木々より鳥の鳴き声が朗々と響く中で、半ば泥に塗れたジャングルの小道を亜熱帯仕様が施された《ナナツーウェイ》が歩んでいく。

 乳白色の標準型だが、熱に強い特殊装甲を三枚、加えて組み付いてくる相手に対しての反応装甲を一枚備えていた。

 ほぼ重装備に等しい《ナナツーウェイ》は三機編隊。

 それぞれ重厚な足跡を刻みつつ、ジャングルを分け入る。

レイカル 14 一月「レイカルの雪合戦」

「創主様っ! 創主様! 起きてください!」

 布団を揺さぶられ作木は眠気の残る瞼を擦っていた。

「……どうしたの? レイカル。まだ朝早いんじゃ……」

「そうではありません! ご覧ください!」

 カーテンを開いたレイカルが感嘆の息をつく。作木も思わず、わっと声を上げていた。

「雪だね……」

レイカル 13 十二月「レイカルの大晦日」

「……今年ももう終わりね……」

 窓際で呟いた小夜の物憂げな表情にナナ子は自身の作業を進めつつ応じる。

「何? ため息ついちゃってらしくない。トリガーVの続編決まったんでしょ? 来年も大忙しじゃない。……あー、そっか。小夜ってば、今年も収穫がなかったことに嘆いているのねー」

「う……うっさいわねー。あんただって似たようなもんでしょ」

JINKI 55 銀と黒

「――ヒトは、罪を被って生まれてきた、と我々は定義します」

 教会に響き渡ったその声音にぼろを身に纏っていた信徒たちは、おおと声を上げていた。

 どれもこれも、見渡せば些事なるもの。そう断じた金髪のシスターはその銀色の瞳を憂いに伏せる。

 嘆かわしいこの世界に、一筋の赦しを乞うかのように。

 あるいはもう終わりに近づいている世界への、秒読みの諦観そのもののように。

JINKI 54 荒れ狂う運命を超えて

 輸送されてきたコンテナに収まっている人機のデータに、エルニィは眉根を寄せる。

「……南米戦線からの払い下げかぁ……。あまりにごてごてしていて、ボクはあんまし好きじゃないんだけれど」

「この際、選り好みはしていられないわ。そういう窮地に、もう陥っているのよ」

 港へと運び込まれたコンテナには「72T」の識別番号が振られている。エルニィは軍部の寄越したスペック表を睨んでいた。