JINKI 145 最果ての戦場を征く

『……世君。勝世君、起きていますね?』

 友次の言葉を聞きつつ、勝世は愛機たる《トウジャCX》のインジケーターを確かめさせる。

 後続につくフライトユニットを背負った《ナナツーウェイ》とは隊列を組んで先行する形だ。

「聞こえてますよ。オレだって、これでも操主なんですからね」

レイカルノベル 23 8月 レイカルと精霊馬

「――では今日は算数の勉強を……どうした? レイカルよ。呆けた顔をして」

 ヒヒイロの疑問にカリクムは肩を竦める。

「いつものことだろー? レイカルがぼんやりしてるのは」

「……しかし……ちょっとばかしいつもより……レイカルよ、聞いておるのか?」

 その段になってハッとレイカルが我に返る。

JINKI 144 逃避行の中で

「――さて、どうしたもんか……」

 両兵は憮然と求人票を見やる。どれもこれも、無理難題の仕事ばかりで、ふぅむと呻っていた。

「今の今まで人機に関わること以外はほとんどしてねぇってのはデカいな……。とは言え、青葉はあの症状じゃ動けねぇし、オレが稼ぐっきゃねぇわけなんだが……」

JINKI 143 こんな邂逅も

「あのぅ、小河原さん……? もうやめません? 何回やっても、無駄ですよ……。それに、お金だって……」

「黙ってろ、柊。まだだ、まだ。まだオレはやれる」

 そう自身を鼓舞する両兵の背中を見やりながら、赤緒は対面で湧いた群衆の歓声にびくりと肩を震わせていた。

「すげぇ! 十五連勝だぞ、この人! 逸材だ!」

「ああ、このゲーセン始まって以来の名勝負だぜ!」

JINKI 142 アンヘルのお正月三番勝負

「謹賀新年」と書かれた唐松に青葉は少しだけ瞠目してから、そっか、と呟く。

「ここじゃ、何だか実感湧かないけれど、もう年が明けたんだっけ」

「おーっ、青葉じゃないの。どうしたの? 突っ立っちゃって」

「あっ、南さん。その……明けましておめでとうございます」

 ぺこりとこちらの新年の挨拶に南は訝しげにする。

JINKI 141 両兵のお勉強

「あれ、小河原さん。何をやってるんです?」

 赤緒がその背中に声を投げると、両兵は片手を上げて応じていた。

「おう、柊か。ちぃとばかし、立花に教えてもらってンだよ」

 その手に握られているものを目にして、赤緒は信じられないようなものを見る目つきになっていた。

JINKI 140 約束は風任せで

「あれ? 小河原さん、それって、もしかしてバイクですか?」

 柊神社の境内で両兵が弄っていたのは年季の入った黒いバイクであり、レンチやら何やら工具を取り出している。

「おう、見て分からんか? こいつ、橋の下の仲間内でちょっとした話題になっていてな。一人の奴の所持品だったんだが、維持費が馬鹿にならんとのことで引き受けたんだ。とは言え、オレもバイクのメンテっつーと初心者だからな。こうして柊神社まで持ってくりゃ、天才も居るし、それなりに見れるものにはなんだろと思ってな」

JINKI 139 似合いの場所に

「あの、ヴァネットさん……ここの書類、見てもらえますか?」

 早速上からの書類が回ってきて、メルJは眼鏡のブリッジを上げる。

「ふむふむ……これは仕様書だな。こちらで見ておこう。後の仕事は引き継ぐから休んでくれるといい」

「た、助かりますぅ……! ああ、よかったぁ……」

JINKI 138 夢幻領域の向こうで

 テーブルダスト、ラ・グラン・サバナの土地には遥か昔、人機がまだ才能機と呼ばれていた頃より伝承がある。

 72式作業人機――後の《ナナツーウェイ》に繋がる系譜の人機が建造された当初、一機のナナツーがベネズエラの森林地帯の向こう側へと消えて行った。

 だが、操主は一人も欠けておらず、また武装も持っていかなかったと言う。

JINKI 137 赤緒のダイエット奮戦録

「……嘘……っ?」

 愕然とする。

 一度、降りてから、もう一度、慎重に、それこそ一歩一歩を踏み締めるように量り直したが、やはりと言うべきか、数字は変わらなかった。

「……増えてる……」

 数字はいつだって残酷である。